2011年 5月 15日更新

日本ボストン会 The Boston Association of Japan

                                   
                                        三好美智子

秋晴れの10月21日(土)午後3時、参加者8人(酒井幹事夫妻、俣野夫妻、山崎夫妻、篠崎さん、西川さん)が、JR上野駅(公園口)前の国立西洋美術館の前庭にあるロダン作“地獄の門”前に集まって秋の美術の会の行事“国立西洋美術館の常設展を鑑賞する”を始めた。

この二年半ばかり、当館でボランティアとしてギャラリー・トークを担当している私が案内役を務めた。今回は、この美術館の基礎をなしている松方幸次郎コレクションを代表する絵画と彫刻を中心に、時代を追って鑑賞することによって西洋美術の流れを見ていただきたいと考えた。

初めに、前庭で圧倒的な存在感のあるロダン作“カレーの市民”のところへ行き、「イギリスのエドワード3世への人質として死に直面した男たちの怖れや苦悩の表情にリアリティと追力を持たせた」歴史的背景とロダンの創作過程のエピソードを紹介してから館内に入った。

この建物は、20世紀最も優れた建築家の一人であるフランスのル・コクビジュが設計したもので、明かりとりの窓やピロティ(美術館の入口部分にあるゆとりあるスペース)など随所に彼の特徴が見られ、建築物としても貴重である。

さて、館内でまず最初に見たのは16世紀前半に描かれたベルギーのフランドル地方の三連祭壇画である。西洋美術において宗教画はやはり外せないからである。祭壇画に描かれている人物の人間関係、アトリビュート(人物が誰であるかを明らかにするのに使われる象徴的な事や道具)を解説した。「描いた画家の思いや工夫が見てとれ、宗教画が面白く
なった」という意見が出てうれしくなった。

見慣れている“最後の晩餐”などの宗教画をざっと見て17世紀のコーナーに進んだ。この世紀に世界を制覇していたオランダは絵画の上でも大いに発展していた。風景画、静物画、風俗画に画家達は腕を競いあったのだ。これらの絵画について思い思いの感想を述べあった。話は熱気を帯び、夢中になったために監視員から注意を受け、ヒヤーとすることもあった。

次に18世紀のフランス・ロココの優美な影響を残しながらも新しい時代の到来をしのばせる女性画家マリー・ガブリエル・カペの自画像をへて、いよいよボストン美術館で見慣れた印象派の画家たちの部屋に入った。ここでは何の説明も必要でなかったので、各自にお気に入りの画家の作品の前で静かな時を遇ごして貰った。

隣接するモネの部屋では、写真に造詣の深い篠碕さんを囲み、この絵は朝か夕方かと議論しながら、“雪のアルジャントゥイユ”の作品の前でしばし雪景色に見入ってしまった。

最後に現在に一番近い作品のある吹き抜けの明るい部屋で椅子に座り、ゆったりとピカソ、ミロ、エルンスト、ポロック等の抽象的な作品を楽しんだ。

そして振り出しの既にライトアップされた“地獄の門”の前で、「みな地獄行きだ」と軽口をたたきながら記念写真におさまった。既に午後5時になっていた。

世界中を飛び回り、多くの美術作品に触れてきている皆様に、口々に国立西洋美術館のコレクションの充実ぶりを褒めていただき、再度訪れたいとのお言葉を頂いた。なお65歳以上なら常設展は無料である。

篠崎さんから時代により「光の扱い方」の違い、酒井夫人から「額も絵画の重要な一部であること」を教えていただくなど、知識、経験ともに豊かな皆様と作品を見たことの意義は大きく、小中高生を相手にトークしているときには得られない楽しさであった。

JR上野駅前の中華料理店“過門香”での会食では、ボストンの今と昔、エジプトからイタリアヘと
世界中の話題が飛び交った。そしてごく卑近なじじ、ばばへと話は尽きなかったが、午後8時にお開きとして、家路についた。

国立西洋美術館の常設展を鑑賞する

日本ボストン会 The Boston Association of Japan