510日と11日に奈良の史跡を巡った。実は昨年の総会の席で山口静一会員が発議されたら賛同の輪が広がった。そして奈良在住の吉田礼子会員と京都在住のマイケル・ジャメンツ会員とご夫人の登三子会員からご支援の申し出があって実現できた。
 関東地区からの参加者は順不同で、発案者の山口会員、吉野顧問、藤盛会長夫妻、俣野副会長夫妻、幸野会員、棚橋会員、吉田(博)夫妻と幹事団の篠崎夫妻、酒井夫妻および三好夫妻であった。そして現地会員として10日には吉田礼子会員とジャメンツ登三子会員が、11日にはジャメンツ会員夫妻が加わった。
 10日昼前にJR奈良駅で落ち合って昼食。天気予報は雨模様で傘を忘れないようにとのことだったが雨雲が見えないのを幸いに三条通を歩き始めた。

 山口会員の案内で最初に淨教寺を訪問した。東大のお抱え外人教師であったフェノロサ Earnest Fenollosa が明治初年に「奈良の諸君に告ぐ」という歴史に残る大演説をしたのがこの淨教寺である。明治維新で王政復古となり廃仏毀釈運動が起こって寺宝が安値で売り払われたり無残にも打ち捨てられたりしていた。それを見たフェノロサが「奈良の古物は日本の宝ばかりでなく世界の宝である。これらを奈良の人が護るべきであり、それは大いなる栄誉でもある。」と訴えた。これが奈良の誇る世界遺産の原点であると前住職の島田和麿師から伺った。

 
次に奈良国立博物館で開催中の特別展「快慶 日本人を魅了した仏のかたち」を鑑賞した。ジャメンツ会員は中世仏教が専門であり、この特別展に尽力されたのだった。国宝、重要文化財が数ある中にボストン美術館からの里帰りした弥勒菩薩立像があった。解説によると「今日知られる快慶作品のうち最も制作年代が早い。もと奈良・興福寺に伝来した。」という、ボストン会にとっても喜ばしい里帰りだった。
 
ここで久しぶりに大仏殿を見ようという組と興福寺の仏像を見る組に分かれた。筆者は後者だったが、興福寺は長期にわたる整備工事が進められている関係で国宝館は閉館されていた。創建当時の配列にしたという阿修羅像を中心として諸像は仮講堂で見ることができた。そして東金堂には旧山田寺蔵の仏頭と日光・月光両菩薩とが600年振りの再会だという展示があった。仏頭は飛鳥時代、阿修羅像などは奈良時代というので千年以上も前の作品だが時代を越えた芸術性の高いものばかりであった。
 

2017年 5月 30日更新

日本ボストン会 The Boston Association of Japan
日本ボストン会 The Boston Association of Japan

奈良紀行



                   三好 彰

 

 ホテル内のレストランで夕食を摂った。人数分ちょうど入れる個室だったので声高に歓談を楽しんだ。
 天気予報の雨は夜に降った。12日の朝が明けると快晴であった。早朝に京都を経たれたジャメンツ夫妻を交えて貸し切りバスは8時半に出発した。法隆寺に向かうバスの中で山口会員から、「フェノロサが寺の反対を押し切って夢殿の扉を開けさせた。そして幾重にも撒かれてあった布を外すと救世観音像が現れ出た」という秘話を伺った。現在では毎年春と秋の一定期間だけ公開されるが今日は幸いにも見ることができるので期待が膨らんだ。講話はさらに法隆寺の宝物から中宮寺の弥勒菩薩像にまで及んだ。
 法隆寺の中門は修理中でテントに覆われていた。そのわきの入口から入ると天平の世界が広がった。もっともたくさんの修学旅行生が居たので平成にすぐ戻る。
 五重塔を仰いで金堂を廻る。金堂の焼失を知る世代には感慨深いものがある。講堂を抜けるとエンタシスの回廊であり、心も和んで西伽藍を出ると聖徳太子ゆかりの聖霊院である。
 その先が宝物を展示する大宝蔵院で、教科書で覚えた夢違観音、玉虫厨子、百済観音などに気もそぞろとなる。
 東伽藍への道は長く、かんかん照りがそれに輪をかけた。いよいよ夢殿である。フェノロサゆかりの救世観音像を拝んだが、像まで届く快晴の陽光がここでは幸いした。静かに往時を偲んだ。
 ついで隣接の中宮寺で弥勒菩薩半跏思惟像を見る。門跡寺院にふさわしい清らかなお姿であった。
 各自が思い思いに見て回ったが時間内に全員そろった。そして昼食会場にバスで移動した。

 午後はまず法輪寺に詣でた。山口会員のお勧めの寺である。飛鳥時代に遡る遺構が見つかっているという屈指の古刹であるが、太古の建物が天災で崩壊してしまったためか世界遺産から外れている。ご住職(尼僧)から飛鳥仏などの諸仏の詳しい説明を受けた。
 バスで西ノ京に移動した。ジャメンツ会員にバスの中でご専門の仏教研究のことを踏まえて見学の要点を伺った。

 次に薬師寺に詣でた。若い僧の巧みな法話で修学旅行生がどっと笑う声が遠くから聞こえてきた。金堂の薬師如来坐像と日光・月光菩薩立像、東院堂の聖観音菩薩立像を眺めて去りがたかった。新造の玄奘三蔵院伽藍で平山郁夫画伯の大作「大唐西域壁画」を鑑賞した。

 最後のお寺は鑑真和上ゆかりの唐招提寺である。10年に及んだ平成の大修理が無事済んだせいか寺全体に落ち着きが見られた。国宝の本堂に盧舎那仏や文字通り手が千もありそうな千手観音立像などの国宝の諸仏がふさわしかった。有名な鑑真和上坐像は年一回の公開日(来月)まで待たねばならない。
 これで予定した見学先を時間内に見終わった。二日とも万歩計は1万歩を大幅に超えていたが、どなたも健脚で弱音を吐く方は居なかった。大いに満足してJR奈良駅で解散した。
 山口会員とジャメンツ会員に会員同士の気安さで不勉強をさらけだした質問を繰り返したが、適切にお教えいただいたことに擱筆に当たり感謝します。これからも不勉強を取り戻すような旅を会員各位と楽しんでいきたい。

(文責 担当幹事 三好 彰)